場の量子論の学習をするうちに遭遇するスピノールなんかに関するトピックになります。 基本的なクリフォード代数やスピン群およびその表現論に関するトピックです。 空間の回転群とスピン群との関係やローレンツ群とスピン群との関係など、物理学で現れるスピンの概念が幾何学の中でどのように自然に導入されうるのかを垣間見ることができます。
内積を持ったn次元実ベクトル空間を\(V\)とする。基底を\((e^1,e^2,\cdots ,e^n)\)とする時、 この基底での計量が
で与えられるとする。
この時、ベクトル空間\(Cl(V)\)を、積が定義されていて、基底が
及び\(1\)で与えられ、関係式
で与えられ、係数が実数であるものとする。\(\dim Cl(V)=2^n\)である。 \(Cl(V)\)をクリフォード代数という。 慣例として反交換関係を\(v,u\in Cl(V)\)に対し
で定義する。
\(Cl(V)\)の部分代数\(Cl_0(V),Cl(V)_1\)をそれぞれ、\(V\)の基底の偶数個の積からなる\(Cl(V)\)の基底 の線形結合したもの全体の集合、奇数個の積からなる基底の線形結合の集合とする。 従って分解\(Cl(V)=Cl_0(V)\oplus Cl_1(V)\)が成立する これらの次元はともに\(\dim Cl_0(V)=\dim Cl_1(V)=2^{n-1}\)である 11
\(\dim Cl_0(V)=\ _nC_0+\ _nC_2+\ _nC_4+\cdots \)及び\(\dim Cl_1(V) =\ _nC_1+\ _nC_3+\ _nC_5+\cdots \)であるが、\(\sigma _1^2=1\)として、 \((1+\sigma _1)^n=\dim Cl_0(V)+\dim Cl_1(V)\sigma _1\)及び \((1+\sigma _1)^n=2^{n-1}(1+\sigma _1)\)であることより\(\dim Cl_0(V)=\dim Cl_1(V)=2^{n-1}\)が 分かる。
。
例1) \(Cl(\mathbb {R})\)の場合。基底\(e^1\)の内積、\((e^1,e^1)=\pm 1\)に対して、 \(Cl(\mathbb {R})=\mathbb {C},\mathbb {R}\oplus \mathbb {R}\)である。ただし、 2個目のは\(1,\sigma _1\ (\sigma _1^2=1)\)により 張られるベクトル空間であり、基底を\(\frac {1\pm \sigma _1}{2}\)と選ぶことにより、直交分解になる。
例2) \(Cl(\mathbb {R}^2)\)の場合。まず、計量は\(g^{ij}=\delta ^{ij}\)とする。 この時\(Cl(\mathbb {R}^2)=\mathbb {H}\)となる 22
\(\mathbb {H}\)は四元数であり、 \(\mathbb {H}\simeq \mathbb {R}(\frac {1}{i}\sigma _1,\frac {1}{i}\sigma _2,\frac {1}{i}\sigma _3)\)である。ここで \(\mathbb {R}(\frac {1}{i}\sigma _1,\frac {1}{i}\sigma _2,\frac {1}{i}\sigma _3)\)は \(\frac {1}{i}\sigma _1,\frac {1}{i}\sigma _2,\frac {1}{i}\sigma _3\)から生成される\(\mathbb {R}\)上の代数を表す。
。計量が\(g^{ij}=-\delta ^{ij}\)の時は、
により張られるベクトル空間なので、\(Cl(\mathbb {R}^2)=M(2)\)となる 33
。 計量が逆符号の場合は、上の場合の、\(e^2\)と\(e^1e^2\)の行列への対応を入れ替えたものになるので、
この場合も\(Cl(\mathbb {R}^2)=M(2)\)である。
例3) \(Cl(\mathbb {R}^3)\)の場合。計量は\(g^{ij}=\delta ^{ij}\)とすると、 \(Cl(\mathbb {R}^3)=\mathbb {H}\oplus \mathbb {H}\)である。 この対応は後述する\(Cl(\mathbb {R}^3)=Cl(\mathbb {R})\otimes Cl(\mathbb {R}^2)\)の対応により得られる。 同様にして計量が\(g^{ij}=-\delta ^{ij}\)の場合は\(Cl(\mathbb {R}^3)=M(2,\mathbb {C})\) で与えられる。 詳細な議論はの章を参照されたい。 他の計量の場合も同様(詳しくは読者に任せる)。
スピン群の定義。\(a_{ij}\)が実数とし、
の形の元全体は群をなす。これを\(\mathrm {Spin}(V)\)と書き、スピン群という。
前節の計量\(g\)が与えられたn次元実ベクトル空間\(\mathrm {V}\)に対して、内積を不変に保つ群を \(\mathrm {O}(V)\)とする。\(\mathrm {O}(V)\)の元はその行列式が\(\pm 1\)である。 その中で行列式が\(+1\)のもの全体からなる部分群を \(\mathrm {SO}(V)\)とする44
計量の対角成分が全て\(1\)である場合は\(\mathrm {SO}(V)\)は\(\mathrm {SO}(n)\)になる。 その場合にはスピン群を\(\mathrm {Spin}(n)\)と書く。
。\(\mathrm {SO}(V)\)の元を\(e^{S}\)と書くと
よって
今は\(g^t=g\)なので結局
となる。即ち\(gS\)は\(\mathrm {SO}(n)\)の生成子(\(\mathfrak {so}(n)\)の元)となる。 また
とベクトルで表し、行列\(M\)が\(M^t=-M\)とすると(即ち\(M\in \mathfrak {so}(n)\))
これより\(\mathrm {SO}(V)\)の生成子\(S\ (gS=M)\)に対し
従って\(\mathrm {Spin}(V)\)の元\(\exp \left (-\frac {1}{4}\v {e}{M}\v {e}\right )\)の\(V\)へのadjoint表現は \(\mathrm {SO}(V)\)になる。即ち
具体的には、\(\alpha =e^{-\frac {1}{4}\v {e}M\v {e}}\)に対し
もう少し一般的にまとめて書けば、i行j列が\(1\)で、j行i列が\(-1\)で他が\(0\)の行列 (これは\(\mathfrak {so}(n)\)の基底をなす)を\(M^{ij}\)と書き、 \(-\frac {1}{4}\v {e}M^{ij}\v {e}=-\frac {1}{4}[e^i,e^j]=: \mathcal {S}^{ij}\)と置けば \(\mathrm {Spin}(V)\)の元は一般的に
の形で書けるもの全体。このadjoint表現、\(\alpha \in \mathrm {Spin}(V),\ v\in V\)
により\(\mathrm {Spin}(V)\rightarrow \mathrm {SO}(V)\)が与えられる。\(S^{ij}=gM^{ij}\)と置けば (\(S^{ij}\)は\(\mathrm {SO}(V)\)の生成子の集合\(\mathfrak {so}(V)\)の基底をなす) この対応は、\(\omega _{ij}=-\omega _{ji}\)として
ここで\(S^{ij}\)は具体的に書けば、
であり、\(S^{ij}=-S^{ji}\)である。\(\mathrm {Spin}(V)\)の生成子全体の集合を \(\mathfrak {spin}(V)\)と書く。
以上により\(\mathrm {Spin}(V)\)群から\(\mathrm {SO}(V)\)への準同型が得られた。 次に、この準同型の核を求める。この計量による内積で
を満たす\(V\)の元\(v,\omega \)について
を計算する。まず\(v=v_ie^i,\ \omega =\omega _ie^i\)の時(iについての和をとるものとする)、
よって
これより\(\mathrm {Spin}(V)\)の元は一般的に\(e^{tv\omega }\)の形で書けることが分かる。 次に\((v\omega )^2\)について
ここで\(v\)または\(\omega \)のノルムが\(+1\)か\(-1\)かで場合分けされる。ともに\(1\)か\(-1\)の場合は \((v\omega )^2=-1\)。よって
一方が\(-1\)、もう一方が\(1\)の場合には\((v\omega )^2=1\)。よって
となる。前者の場合にはスカラーは\(\pm 1\)。後者の場合は\(1\)のみ。 どちらも明らかに\(ad\)の核である。またそれらに限ることが分かる。
\(n=2\)の場合、
の場合は前者に当てはまり、よって核は\(\{\pm 1\}\)。よってこの場合には\(\mathrm {Spin}(V)\)は \(\mathrm {SO}(V)\)の2重被覆になっている。
の場合は後者の場合に当てはまり、よって核は\(1\)のみ。即ち\(\mathrm {Spin}(V)\simeq \mathrm {SO}(V)\) である。
\(n\geq 3\)の場合、核は\(\{\pm 1\}\)。よって\(\mathrm {Spin}(V)\)は\(\mathrm {SO}(V)\)の2重被覆に なっている。
\(Cl(V)\)の基底で張られるベクトル空間で、基底の関係式も同じだが、係数が複素数であるものを \(\mathbb {C}l(V)=Cl(V)\otimes \mathbb {C}\)と書く。明らかにいくつかの基底に\(i\)をかけて基底を 取り直すことにより、計量は対角成分を全て\(1\)であるように出来る。よって\(V\)の計量によらず、 次元にだけ依存するので、\(\mathbb {C}l(n)\)と書くことにする。 また\(\mathfrak {spin}(V)\)の元を\(\frac {1}{2} \omega _{ij}\mathcal {S}^{ij}\)とし、\(\theta \)を実数として \(\frac {1}{2}\omega _{ij}\mathcal {S}^{ij}+i\theta \)を生成子とするリー群、つまり \(e^{\frac {1}{2}\omega _{ij}\mathcal {S}^{ij}+i\theta }\)全体からなる集合(群をなす) を\(\mathrm {Spin}^c(V)\)と書き、その生成子全体からなる集合を\(\mathfrak {spin}^c(V)\)と書く。
例1) \(\mathbb {C}l(1)\)は\(\mathbb {R}\oplus \mathbb {R}\)を複素化すれば\(\mathbb {C}\oplus \mathbb {C}\) であることが分かる。
例2) \(\mathbb {C}l(2)\)は\(M(2)\)を複素化すれば\(M(2,\mathbb {C})\)であることが分かる。
クリフォード代数の表現について。前に与えた計量\(g^{ij}\)による内積を持つn次元実ベクトル空間を\(V_n\)と書くことにする。 この時\(Cl(V_{n+2})=Cl(V_n)\otimes Cl(V_2)\)と書けることが分かる。 対応は、\(V_n\)の基底を\(e^{i}\ (i=1,\cdots ,n)\)、\(V_n\)の計量を、\(V_{n+2}\)の1行1列からn行n列までと 同じか反対符号(どっちであるかは後述する)、\(V_2\)の基底を\(\theta ^i\ (i=1,2)\)とし、 \(V_2\)の計量は\(V_{n+2}\)の\(n+1\)行\(n+1\)列から\(n+2\)行\(n+2\)列までと同じであり、 \(\eta ^{ij}\ (i,j=1,2)\)で書くとすると、 \(V_{n+2}\)の基底\(\omega ^i\ (i=1,\cdots ,n+2)\)は
により対応する。関係式は\(1\leq i,j\leq n\)の時
ここで\(V_n\)の計量は最後の等式が成立するように符号を選んだものであるとする。 即ち\(\eta ^{11}=\eta ^{22}\)であれば\(V_{n+2}\)の計量と逆符号。\(\eta ^{11}=-\eta ^{22}\)であれば同符号。 残りの関係式は
(\(n+2\)も同様)及び、\(i,j=1,2\)として
となり、実際に\(Cl(V_{n+2})\)の基底の関係式を満たしていることが分かる。 また、この対応が同型であることは、ベクトル空間としての次元がともに同じであることから分かる。
複素化したものは、\(\mathbb {C}l(n+2)=\mathbb {C}l(n)\otimes \mathbb {C}l(2)\)であることが 分かる。
以上により、結局表現は\(1\)次元と\(2\)次元のクリフォード代数の表現が分かればよいことになる。 それらはすでに2節クリフォード代数の節で求めた。 \(Cl(V)\)の表現を計算するには、計量を最初は\(+1\)のみ並べて、残りを\(-1\)が並ぶように、つまり
となるように基底を取りなおしたらよい。後は上記のように分解させていけばよい。 その際次元を下げていく時に計量の符号を逆符号にさせるのか、同符号にさせるかを注意する必要が ある。 計量の中で\(+1\)の成分が2つ以上ある時には2つの\(+1\)をペアにして\(\mathbb {H}\)を対応させる。 ペアを作ったらその2つの\(+1\)を取り除いて全ての符号を逆にした新しい計量を作る。 同様に2つの\(+1\)のペアを作れる時は同じように\(\mathbb {H}\)を対応させて同様の操作を行う。 \(+1\)のペアを作れない時は2つの\(-1\)のペアを作って\(M(2)\)を対応させる。 これらの操作を繰り返す。 最後は\(V\)の次元nが偶数か奇数かで 2つのペアで終わるか、1つ余るかである。前者であればやはり\(\mathbb {H}\)か\(M(2)\)か適切な方を 対応させ、後者であれば残ったのが\(+1\)であれば\(\mathbb {C}\)を、\(-1\)であれば\(\mathbb {R}\oplus \mathbb {R}\)を対応させる。 このようにして一般的に\(Cl(V)\)の表現を求めることが出来る。 ペアの作り方に任意性があるが得られる表現はすべて同型である。
\(\mathbb {C}l(n)\)の場合はもっと単純で、\(n\)が偶数か奇数かで
となる。
ここでスピン群の表現を考える。まずクリフォード代数の表現は、\(n=2m\)の時
及び\(n=2m+1\)の時
であるので、\(n=2m\)の時は既約表現は\(\mathbb {C}^{2^m}\)であり、 \(n=2m+1\)の時は\(2\)つの代数の直和となっていて、それぞれの既約表現が\(\mathbb {C}^{2^m}\)となっているのが分かる。 スピン群\(\mathrm {Spin}(V)\)はクリフォード代数により生成されるので、これらはスピン群の既約 表現にもなっている。この表現をスピノール表現といい、\(W_n\)で表す。
ここで物理での\(\gamma ^5\)に相当する
を考える。ここで\(\varepsilon \)は\((-1)^{\frac {n(n+1)}{2}}g^{11}g^{22}\cdots g^{nn}=1,-1\)に対して \(\varepsilon =0,1\)である。これは単純に\(\omega ^2=1\)となるように係数を付けているだけである。 まず、\(v\in V\)の時
となる。\(n=2m+1\)の時は従って、全ての\(\mathbb {C}l(n)\)と交換するので、定数となる。正確には \(\mathbb {C}l(2m+1)=M(2^m,\mathbb {C})\oplus M(2^m,\mathbb {C})\)の既約分解に対して、最初の \(M(2^m,\mathbb {C})\)に対して定数で、後のそれに対しても定数となる。\(\omega ^2=1\)より \(\omega \)の表現は各既約表現に対して、\(\pm 1\)である。明らかに\(1\)ではないので、 \(\omega =(1,-1)\)である。次に\(n=2m\)の時を考える。この時は\(\omega \)は定数ではないが、\(\omega ^2=1\) より\(\omega \)の固有値は\(\pm 1\)である。\(\pm 1\)の固有値に属する\(W_n\)の部分空間をそれぞれ \(W^R_n,W^L_n\)とする。従って\(W_n=W^L_n\oplus W^R_n\)である。 また\(v\in V,\ w^{\pm }\in W^{\pm }_n\)とすると(簡単のため\(L\)を\(-\)で、\(R\)を\(+\)で書いて)、
なので\(vW^\pm _n=W^\mp _n\)である。
ここで\(\mathbb {C}l(2m)\)を\(\mathbb {C}l(2m-1)\)の既約表現で表すことが出来る (これは物理でのWeyl spinorの一般化である)。 対応は、\(\mathbb {C}l(2m)\)の基底を\(e_i\ (i=0,1,\cdots ,2m-1)\)で、 \(\mathbb {C}l(2m-1)\)の基底を\(\theta ^i\ (i=1,\cdots ,2m-1)\)で表し(既約表現であるとする) 、\(V_{2m}\)の計量を\(g\)で表せば、
で対応する。実際反交換関係を調べると
従って\(V_{2m-1}\)の計量を\(g^{00}=\pm 1\)に従って、\(V_{2m}\)の計量(の対応する成分)と同じか反対 かにすれば、対応が得られる。また次元は\(\dim W_{2m-1}=2^{m-1}\)なので、 この表現の次元は\(2^{m}\)となり、実際に\(W_{2m}\)の次元に一致するので、同型であることが分かる。 この表現において、\(\omega \)は計算すれば、
となる。ここで\(\acute {\omega }\)は\(W_{2m-1}\)の\(\gamma ^5\)なので、\(\pm 1\)であり、 \(\acute {\varepsilon }\)は\(\acute {\omega }\)の定義の\(\varepsilon \)である。この時 よく考えれば\(\varepsilon =\acute {\varepsilon }\)が分かる。よって実際に
である。 \(W_{2m}\)のこの表現による表示をWeyl表示といい、この表示での\(W^\pm _{2m}\)の元をWeyl spinorという。
この時、\(\mathfrak {spin}(V_{2m})\)の元\(\mathcal {S}^{ij}=-\frac {1}{4}[e^i,e^j]\)の表示は \(i,j=1,2,\cdots ,2m-1\)として
ここで計量が1つが\(-1\)で他は全て\(+1\)か、逆に1つが\(+1\)で他は全て\(-1\)である場合には\(\theta ^i\)が 自己エルミートであることが示せる。それにはまず\(\mathbb {C}l(2m-1)\)の表示を考えるが、それには \(\mathbb {C}l(n+2)=\mathbb {C}l(n)\otimes \mathbb {C}l(2)\)の対応のところを考えたらいい。 \(\mathbb {C}l(2)\)は基底を\(\sigma _1,\sigma _2\)に選ぶ。\(\mathbb {C}l(3)\)にもやはりパウリ行列 に\(i\)をかけたものを基底に選べばいい。こうすれば\(\mathbb {C}l(5)\)の基底が全て自己エルミート となり、計量は全て\(-1\)となる。後は\(\sigma _1,\sigma _2\)を基底として\(\mathbb {C}l(2)\) を同じようにしてつけていけば帰納的に\(\mathbb {C}l(2m-1)\)の基底が自己エルミートであり、 計量が全て\(-1\)であるように出来る。後は\(\mathbb {C}l(2m)\)を構成する時に\(g^{00}\)を\(-1\)に取るか \(+1\)に取るかで、残りの計量の成分は\(+1\)か\(-1\)かになる。この場合には上の\(\mathcal {S}^{ij}\)は 反エルミートであり、\(\mathcal {S}^{0i}\)は自己エルミートになる。 よって、\(\psi \in W^-_{2m},\phi \in W^+_{2m}\)に対し、\(\psi ^\dagger \phi \)及び\(\phi ^\dagger \psi \) は\(\mathrm {Spin}(2m)\)のもとでスカラーとなる。具体的にはスピノール表現上の計量を
と取れば、
となるからである。 また、\(V_{2m}\)の基底\(e^i\)に対し、\(\phi ,\psi \in W_{2m}\)とした時、 \(\phi ^\dagger ee^i\psi \)はベクトル表現になることも 分かる。ここで\(\phi ^\dagger e=\bar {\phi }\)と置けば、\(\bar {\phi }\psi \)がスカラー。 \(\bar {\phi }e^i\psi \)がベクトル表現である。
同様に今度は計量の成分全てが\(+1\)または\(-1\)の場合には\(\theta ^i\)が反エルミートであることが 示せる。\(\mathbb {C}l(2)\)の基底を今度は\(i\sigma _1,i\sigma _2\)を選び、\(\mathbb {C}l(3)\)の基底 にパウリ行列を選ぶ。こうすれば\(\mathbb {C}l(5)\)の基底が全て反エルミートになり、計量は全て \(+1\)になる。後は\(i\sigma _1,i\sigma _2\)を基底をして\(\mathbb {C}l(2)\)をつけていけば帰納的に \(\mathbb {C}l(2m-1)\)の基底が全て反エルミートで計量が全て\(+1\)であるように出来る。後は \(\mathbb {C}l(2m)\)の構成の際に\(g^{00}\)を\(+1\)に取るか\(-1\)に取るかで残りの計量の成分が全て \(+1\)か\(-1\)になる。この場合には\(\mathcal {S}^{ij}\)はやはり反エルミートで、\(\mathcal {S}^{0i}\) も反エルミートとなる。よってこの場合には\(\psi ,\phi \in W^\pm _{2m}\)に対し、\(\psi ^\dagger \phi \) が\(\mathrm {Spin}(2m)\)のもとでスカラーとなる。スピノールの計量は\(1\)である。即ち
である。また、\(V_{2m}\)の基底\(e_i\)に対して\(\phi ,\psi \in W_{2m}\)の時、 \(\phi ^\dagger \psi \)はスカラー、\(\phi ^\dagger e^i\psi \)はベクトル表現である。
今度は計量の2成分だけが\(-1\)で、他は全て\(+1\)の場合でスピノールの計量がどうなるかを考える。 この場合には前の2つの場合ほど簡単ではない。 考えなくてはいけないのはスピノールの計量\(e\)に対して
とならなくてはいけない。最初に\(\mathcal {S}^{0i}\)について考える。 まず、\(g^{00}=-1\)を取る。次に \(\mathbb {C}l(2m-1)=\mathbb {C}l(2m-3)\otimes \mathbb {C}l(2)\)の分解の時、 \(\mathbb {C}l(2)\)の基底を\(\theta ^1=i\sigma _1,\theta ^2=\sigma _2\)に取る。 \(\theta ^1\theta ^2=i\sigma _1\sigma _2=-\sigma _3\)である。 まず、これらがある行列\(c\)による相似変換により\(c\theta ^ic^{-1}=-(\theta ^i)^\dagger \)となるかどうかを 考える。行列\(c\)として
を取れば、実際に\(c\theta ^ic^{-1}=-(\theta ^i)^\dagger \)になっている。\(c\)の相似変換のもとで \(\theta ^1\theta ^2=-\sigma _3\) は\(c(-\sigma _3)c^{-1}=\sigma _3=-(\theta ^1\theta ^2)^\dagger \)になる。 よって残りの\(\mathbb {C}l(2m-3)\)の基底に対しては、相似変換のもとでエルミート共役になればよい。 残りをさらに分解して\(\mathbb {C}l(2m-3)=\mathbb {C}l(2m-5)\otimes \mathbb {C}l(2)\)を考えれば、 \(\mathbb {C}l(2)\)の基底はパウリ行列の\(\sigma _1,\sigma _2\)でよい。これらは自己エルミートなので これらは\(1\)による相似変換となる。これらの積は\(i\sigma _3\)であるが、これのエルミート共役の \(-1\)倍は\(i\sigma _3\)自身なので、残りの\(\mathbb {C}l(2m-5)\)の基底も相似変換のもとでエルミート共役 であればよいことになる。後は帰納的に、残り全ての分解に対して\(1\)による相似変換であればよいこと になる。 以上により\(\mathcal {S}^{0i}\)は
(\(1\)は2行2列の単位行列)により\(e\mathcal {S}^{0i}e^{-1}=-\mathcal {S}^{0i\dagger }\)となる。 \(\mathcal {S}^{ij}\)は
となる。よって実際に\(e\)は\(\mathrm {Spin}(V_{2m})\)のもとで不変となり、スピノールの計量である。
逆に2つが\(+1\)で他全てが\(-1\)の計量の場合にも同様である。
以上のように一般的には、スピノールの計量を求めるのは簡単ではないと思われる。
スピノールの計量\(e\)のもと\(\phi ,\psi \in W_{2m}\)の内積を
と書くことにする(物理では\(\bar {\phi }\psi \)と書く)。
ここで注意をしておく。一般にこの内積の定義は、一般的にいう”内積”の定義からすると内積 ではない。即ち一般にはここでの内積は正値性、及び正定値性を満たさない 55
正値性は全ての\(\psi \)に対して
であり、正定値性は
という条件で与えられる。スピノールの計量が\(e=1\)の場合においてはこれらの条件を満たす。
。
向きづけ可能な、計量を持つ多様体\(M\)を考える。計量は局所正規直交基による表示で最初に与えた計量 \(g\)になるとする。向きづけ可能なので主\(\mathrm {SO}(V)\)束、\(\mathrm {SO}(M)\)を考えられる66
ここで局所基底により計量の成分は\(+1\)か\(-1\)なので、\(M\)の向きづけ可能性は\(\mathrm {det}g_{ij}\) が\(M\)上のどの点でも\(0\)にはならないと定義する。
。 この時構造群\(\mathrm {SO}(V)\)が、前に与えた\(ad\)による対応により、 スピン群に持ちあがるかどうかを考える。 \(\mathrm {SO}(V)\)の局所自明化を与える開被覆\(U_\alpha ,U_\beta \in \{U_\alpha \}_\alpha \) の共通部分\(U_\alpha \cap U_\beta \)上での 座標変換系\(g_{\alpha \beta }\in \mathrm {SO}(TM)\)がそのまま \(h_{\alpha \beta }\in \mathrm {Spin}(TM)\)に持ちあがるかどうかということであるが、 このスピン群による多様体上への貼り付けが矛盾なく出来ればよいことになる。 もう少し詳しく言えば、\(ad\)による対応はスピン群が2重被覆であるのでその対応が2通りありうること から矛盾が生じる可能性がある。 開被覆\(U_\alpha ,U_\beta ,U_\gamma \)、及びスピン群 \(h_{\alpha \beta },h_{\beta \gamma },h_{\gamma \alpha }\)に対し
でなくてはいけないが、\(1\)ではなくて\(-1\)であっても、その\(ad\)による対応はちゃんとなってる という感じ。これがちゃんと貼り付けられてる時、構造群をスピン群に持ちあげることが出来る。 このように構造群をスピン群に持ちあげることが出来ることを\(M\)がスピン構造を持つという。 詳しくはものの本に任せるが、スピン構造を持つことは第2スティーフェル-ホイットニー類が \(0\)であると述べられる。\(M\)がスピン構造を持つ時、\(M\)をスピン多様体という。
以下では\(M\)はスピン構造を持つと仮定する。上で考えたスピン群を構造群とするファイバー束 を主\(\mathrm {Spin}(V)\)束といい、\(\mathrm {Spin}(M)\)と書く。
\(\mathrm {Spin}(M)\)の同伴束として、構造群を\(\mathrm {Spin}(V)\)、ファイバーをスピノール表現 であるようなファイバー束\(\mathrm {Spin}(M)\times W_n\)をスピノール束といい\(\mathrm {S}\)で表す。 スピノール束上の内積を
と定義する。ここで\(*\)はHodge作用素である。 スピノールの計量が\(e=1\)の場合(即ちEuclid計量の場合)には この内積の定義のもとスピノール束はヒルベルト空間となる。
\(\mathrm {Spin}(M)\)の同伴束として、今度はファイバーがクリフォード代数\(\mathbb {C}l(V)\) であるファイバー束\(\mathrm {Spin}(M)\times _{ad}\mathbb {C}l(V)\) をクリフォード束といい、\(\mathbb {C}l(M)\)と書く。
構造群をスピン群の複素化\(\mathrm {Spin}^c(V)\)に持つ主\(\mathrm {Spin}^c(V)\)束を \(\mathrm {Spin}^c(M)\)と書く。この時、上と同じでスピンc構造を持つという。また、スピンc構造 を持つ多様体をスピンc多様体という。これもスピン構造と同じで\(ad\)により、 \(\mathrm {SO}(M)\)へ対応する。 この場合にもスピンc構造を持つかどうかの問題は、張り合わせがうまく出来るかどうかの問題 にある。今度はスピン群だけでなく\(U(1)\)もうまく張り合わせられるかどうかが問題になってくる。
多様体\(M\)上の接束\(TM\)の局所正規直交基を\(e_1,\cdots ,e_n\)とし、計量\(g\)を
とする。\(\eta _{ij}\)は最初に与えた対角の計量行列であり
とする。この時、この基底の双対基を \(\theta ^1,\cdots ,\theta ^n\)とすれば、計量は
と書ける。ここで、一般的に\(n\times n\)の行列値1次微分形式\(A\)、及び\(\omega =\eta A\)で(\(\eta \)は 上で与えた計量行列)
を満たすものが唯一存在することが示せる。ここで\(\bar {\theta }\)は\(\theta ^i\)のベクトル表示で ある(付録のベクトル束参照)。この\(\omega =\eta A\)の族は\(TM\)に\(g\)を保つ接続を 定義する。この接続をレビチビタ接続という。レビチビタ接続を\(\nabla \)で表すことにする。 特にファイバーを明確にしたい時には\(\nabla ^{TM}\)と書く。 第1式は\(\nabla g=0\)を表し、第2式はtorsion freeであることを表している。 形式的には\(\nabla \)は
と書ける。ここで\(S^{ij}\)は前に与えた、\(\mathfrak {so}(V)\)の元である。 この時スピン接続とは、このレビチビタ接続のスピノール束への持ちあげである。具体的には、 双対基\(\theta ^i\)のクリフォード代数\(\mathbb {C}l(n)\)への対応を\(e^i\)と書き、 \(\mathcal {S}^{ij}=-\frac {1}{4}[e^i,e^j]\in \mathfrak {spin}(V)\)と書けば、
である。このスピノール束上の接続をスピン接続という。ファイバーを明確にしたい時には \(\nabla ^\mathrm {S}\)と書く。
クリフォード束\(\mathbb {C}l(M)\)上の接続はクリフォード束に構造群\(\mathrm {Spin}(V)\)が 作用するので、自然にスピン接続より誘導される。クリフォード束としての局所自明な正規直交基を \(e^i\)とし、\(\psi \in \Gamma (\mathrm {S})\)とすれば
に対する接続の作用がスピノール束への接続とクリフォード束の接続が自然に調和するように クリフォード束上の接続を定義すればよい。従って\(\mathbb {C}l(M)\)への\(\mathrm {Spin}(V)\)の作用 は\(\alpha \in \mathrm {Spin}(V),v\in \Gamma (\mathbb {C}l(M))\)として
となり、よって、\(e^i\)への\(\mathrm {Spin}(V)\)の作用は\(ad\)により\(\mathrm {SO}(V)\)の作用になるので、 接続形式は\(TM^*\)への接続の接続形式と同じになる。
\(M\)が向きづけ可能な多様体とし、\(M\)上の スピノール束\(\mathrm {S}\)上のスピン接続\(\nabla \ (\nabla ^\mathrm {S})\)に対して、ディラック作用素は
で定義される。ここで\(e^i\)はクリフォード束の切断\(\Gamma (\mathbb {C}l(M))\)の元としての、 局所正規直交基\(e_i\)の双対基である。 flatな場合には局所基底として\(e_i=\partial _i\)と取って、 \(\nabsla =e^i\partial _i\)と書ける。 ここで\(n=2m\)の場合を考える。この時前述のようにスピノール表現は\(W_{2m}=W^L_{2m}\oplus W^R_{2m}\) と書けた。これに伴い、ファイバー\(\varphi \)は
と分けられる。\(e^i\)は
の形で書けた。ここで
である。この表記のもと、ディラック作用素は
と書ける。 ここで、ディラック作用素の共役作用素を考える。 スピノールの計量\(e\)に対して(以下の場合それぞれについて前に与えた ものとする)、
1) 1つが\(-1\)で他全て\(+1\)(またはその逆)の場合には、\((e^i)^\dagger =ee^ie\)となる。
2) 全てが\(+1\)または\(-1\)の場合には、\((e^i)^\dagger =-g^{00}e^i\)となる。この場合には スピノールの計量は\(e=1\)である。
3) 2成分が\(-1\)で他は全て\(+1\)(またはその逆)の場合、\((e^i)^\dagger =-ee^ie\)となる。
いづれの場合にも\((e^i)^\dagger =\pm ee^ie\)となる。よって符号が\(+\)の場合には
となり、よって\(\frac {1}{i}\nabsla =\frac {1}{i}e^i\nabla _{e_i}\)(\(i\)の逆数になってるのは 物理の慣習に合わせた)は、\(e_i\)を局所自明な正規直交基とすれば(即ち\(\nabla e_i=0\))
となる。ここで \(X^i=\braket {\phi ,\frac {1}{i}e^i\psi }\)と置いて1-vectroの成分とみなせば、
となり、よって
となる(右辺の\(^*\)はdualテンソルである。詳しくは”幾何のお話”note参照)。 よって、\(M\)に境界がなければ
と自己共役作用素になる。符号が\(-\)の場合には
となり、\(X^i=\braket {\phi ,e^i\psi }\)と置けば
となり、よって\(M\)に境界がなければ、同様にして\(\nabsla =e^i\nabla _{e_i}\)が
と自己共役作用素となる。 前者の場合には\(D=\frac {1}{i}\nabsla \)、後者の場合には\(D=\nabsla \)と置いて、これを ディラック作用素ということもある。\(\nabsla \)の行列表記より\(D_L,D_R\)が定義出来る。
スピノール束\(S\)はスピノール表現の分解\(W_{2m}=W^L_{2m}\oplus W^R_{2m}\)により、 \(\mathrm {S}=\mathrm {S}^L\oplus \mathrm {S}^R\)と分解出来る。よって超空間である (トポロジーのnote参照)。 またディラック作用素\(D\)は
と書け、超空間上の共役作用素\(D^\dagger =D\)であるので、マッキーン・シンガーの定理より
となる。ここで
である。 これをさらに推し進めて、\(\mathrm {Str}e^{-tD^2}\)を計算すれば、指数定理が得られるが 詳細は述べず、以下に結果だけ書いておく。
\(M\)を偶数次元\(n=2m\)のスピン多様体であるとする。\(\mathrm {S}\)をスピノール束、\(E\)を\(M\)上のベクトル束 とする。\(D\)を\(\Gamma (E\otimes \mathrm {S})\)上のディラック作用素とすると (即ち\(D=e^i\nabla ^{E\otimes \mathrm {S}}_{e_i}\))、
と書ける。ここで\(A(TM,\nabla ^{TM})\)はA形式、\(ch(E,\nabla ^E)\)はChern指標形式である(詳しくは ”ゲージ理論”note参照)。また、積分はn-formだけを取り出して積分しているものとする。 よって奇数次元では\(0\)である。 特に\(M\)上のスピノール束\(\mathrm {S}\)の場合には
となり、ディラック作用素の指数はA種数に等しくなる。これもn-formだけ取り出して積分している ものとする。同様に奇数次元では\(0\)である。
ここで扱うnotationについて、 まずパウリ行列
これらの反交換関係は
となる。
\(\mathbb {K}=\mathbb {C},\mathbb {R}\)とし、\(\mathbb {K}\)の元を成分とするn行n列行列全体からなる 代数を\(M(n,\mathbb {K})\)と書く。 代数とは環の構造にスカラー倍が定義されているものである。 特に\(\mathbb {K}=\mathbb {R}\)の時は簡単に\(M(n)\)と書く。
ベクトル束を\(P\)で表す。底空間を\(M\)とする。\(P\)の局所基底を\(e_i\ (i=1,\cdots ,r)\)とすると \(P\)の切断\(v\)は\(v=e_iv_i\)と書ける。 接続(共変微分)を\(\nabla \)とし、接続形式を\(\omega \)とすれば、 \(\nabla v=e_i(dv_i+\omega _{ij}v_j)\)である(形式的には\(\nabla =d+\omega \))。 これはベクトルで表せば、\(\nabla v=\v {e}^t(d\v {v}+\omega \v {v})\)と書ける。この時曲率は \(\nabla ^2=d\omega +\omega \w \omega \)となる(行列としては積を取る)。 詳しくは”ゲージ理論”noteを参照のこと。