\(% 自動抽出されたマクロ定義
% 元ファイル: 量子力学におけるポアンカレの回帰定理.tex
% 生成日時: 2026-08-06 23:03:26
% MathJax用の標準コマンド定義
\def\slash{/\mkern-5mu}
\def\v#1{{\bf #1}}
\def\d{\mathrm{d}}
\def\pd{\partial}
\def\vf#1{\bar{\bf #1}}
\def\t#1{\tilde{#1}}
\def\ttheta{\t{\theta}}
\def\tomega{\t{\omega}}
\def\w{\wedge}
\def\tt{\ttheta}
\def\to{\tomega}
\def\dq#1{\d q^{#1}}
\def\pq#1{\frac{\pd}{\pd q^{#1}}}
\def\tv#1{\tilde{{\bf #1}}}
\def\vov#1{\stackrel{#1}{\vee}}
\def\nabsla{\nabla\!\!\!\!\slash}
\def\delsla{\pd\!\!\!\slash}
\def\sla#1{#1\!\!\!\slash}
\def\diffop#1{\frac{\d}{\d #1}}
\def\diffopn#1#2{\frac{\d^#1}{\d #2^#1}}
\def\diff#1#2{\frac{\d #1}{\d #2}}
\def\diffn#1#2#3{\frac{\d^#1 #2}{\d #3^#1}}
\def\pdiffop#1{\frac{\pd}{\pd #1}}
\def\pdiffopn#1#2{\frac{\pd^#1}{\pd #2^#1}}
\def\pdiff#1#2{\frac{\pd #1}{\pd #2}}
\def\pdiffn#1#2#3{\frac{\pd^#1 #2}{\pd #3^#1}}
\def\cdiffop#1{\frac{d}{d #1}}
\def\cdiffopn#1#2{\frac{d^#1}{d #2^#1}}
\def\cdiff#1#2{\frac{d #1}{d #2}}
\def\cdiffn#1#2#3{\frac{d^#1 #2}{d #3^#1}}
\def\tr{\mathrm{tr}}
\def\Tr{\mathrm{Tr}}
\def\dbra#1{\langle\!\bra{#1}}
\def\dket#1{\ket{#1}\!\rangle}
\def\dbraket#1{\langle\!\braket{#1}\!\rangle}
\def\Dbra#1{\left.\Left\langle #1 \Right.\right|}
\def\Dket#1{\left|\Left. #1 \Right\rangle\right.}
\def\Dbraket#1{\Left\langle #1 \Right\rangle}
\def\dlangle{\langle\!\langle}
\def\drangle{\rangle\!\rangle}
\def\Dlangle{\Big\langle\!\!\Big\langle}
\def\Drangle{\Big\rangle\!\!\Big\rangle}
\def\sdual#1{#1^*}
\def\dsdual#1{#1^{**}}
\def\dual{{}^\star}
\def\exdual{{}^\dagger}
\def\combi#1#2{{}_{#1}C_{#2}}
\def\grad{\mathrm{grad}}
\def\rot{\mathrm{rot}}
\def\divergent{\mathrm{div}}
\def\inner#1#2{\Braket{{}#1{},{}#2{}}}
\def\dinner#1#2{\Left\langle {}#1{},{}#2{}\Right\rangle}
\def\tensorUD#1#2#3{#1^{#2}_{\,#3}}
\def\tensorDU#1#2#3{#1_{#2}^{\,#3}}
\def\gv#1{\boldsymbol{#1}}
\def\Lie#1{\mathcal{L}_{#1}}
\def\iTM#1{i_{#1}}
\def\iE#1{\iota_{#1}}
\def\a{a_{\mathrm{n}}}
\def\qmark{\mathrm{n}}
\def\qket#1{\ket{#1}_{\!\qmark}}
\def\qbra#1{{}_{\qmark\!\!}\bra{#1}}
\def\qbraket#1{\braket{#1}_{\!\qmark}}
\def\Left#1#2
\def\ts@r{\nulldelimiterspace=0pt \mathsurround=0pt}
\def\sht@im{#2}
\def\@t{{\mathchoice{\def\@fen{\displaystyle}\k@fel}
{\def\@fen{\textstyle}\k@fel}
{\def\@fen{\scriptstyle}\k@fel}
{\def\@fen{\scriptscriptstyle}\k@fel}}}
\def\g@rin{\ts@r\left\@hat\vphantom{\sht@im}\right.}
\def\k@fel{\setbox0=\hbox{$\@fen\g@rin$}\hbox{
$\@fen \kern.3875\wd0 \copy0 \kern-.3875\wd0
\llap{\copy0}\kern.3875\wd0$}}
\def\pt@h{\mathopen\@t}
\def\Right#1{\let\@hat=#1
\def\st@m{\mathclose\@t}
\st@m\endgroup}
\)
INTRODUCTION
ノルム\(1\)の状態ベクトルだけに絞って考えて、エネルギースペクトルが離散的の時に状態空間は無限次元ユークリッド空間の単位球面と見なせる。 そこではリュービルの定理が成り立ち、状態空間の領域の体積が保存する。 エネルギースペクトルを有限で打ち切って考えると(カットオフを入れる)、状態空間の体積は次元に依存するが有限。 また状態空間を移動する速度が算出できるのでそれで状態空間の中を状態が移り変わって元の状態に近い状態に戻る時間を概算できる。 ここでの評価の仕方ではカットオフを入れるエネルギー順位を高くするほど回帰するまでの時間が増加してしまうので 実用上は先に波動関数の近似が良いカットオフを先に決めて固定しておいて、 それから評価をするのが良さそうであった。 ここではそれらの関係を導出して、回帰時間を簡易的に概算する方法を提案する。
導出
時間によらないシュレディンガー方程式は以下のように書ける。 即ちハミルトニアン演算子を\(H\)とし、エネルギー固有値を\(E_n\ (n=1,2,3,\cdots )\)、 エネルギー固有状態を\(\varphi _n\)とすると \begin{equation} \begin {aligned} &H\varphi _n = E_n\varphi _n \\ & E_1 \leq E_2 \leq \cdots \leq E_n \leq \cdots \end {aligned} \end{equation}
である。ここで一般的な系の状態を表す波動関数\(\varphi \)は エネルギーの固有状態\(\varphi _n\)の線形結合で表すことができて、 その係数を\(C_n\)とすると \begin{align} \varphi = \sum _n C_n\varphi _n,\ \ \ \ C_n = a_n + i b_n \label {eq:wavefunction} \end{align}
と書ける。ここで\(a_n\)と\(b_n\)は実数である。 さらに波動関数\(\varphi \)の規格化条件より
\begin{align} \|\varphi \|^2 = \sum _n |C_n|^2 = 1 \end{align}
とすることができる。このことは\(a_n, b_n\)を用いて
\begin{align} \v {x} = (a_1, b_1, a_2, b_2, \cdots ) \in S^\infty \subset \mathbb {R}^{\infty } \end{align}
のように無限次元ユークリッド空間\(\mathbb {R}^{\infty }\)の単位球面\(S^\infty \)上の点として表すことができることを意味する。
\begin{align} |\v {x}|^2 = \sum _n (a_n^2 + b_n^2) = 1 \end{align}
もしこの波動関数\(\varphi \)の固有関数展開(2)を有限の第\(N\)項で打ち切ると \(\mathbb {R}^{2N}\)の単位球面\(S^{2N-1}\)上の点として表すことができる。 \(N\)を十分に大きくとって固定することで厳密な波動関数を近似的に表す波動関数として 議論することができる。 またそのことはエネルギー準位に対してカットオフ\(E < E_N\)を入れて議論することと同値である。 高エネルギーの効果を無視してしまているので有効理論とは違うが ある種の近似理論として議論の妥当性はあると考えられる。
波動関数の時間依存性は時間発展演算子\(e^{-iHt}\)を用いて
\begin{align} \varphi _t &= e^{-iHt}\varphi \nonumber \\ & = \sum _n C_n e^{-iE_nt}\varphi _n \nonumber \\ &= \sum _n \left (a_{nt} + i b_{nt}\right )\varphi _n \end{align}
となる。ここで\(a_{nt}\)と\(b_{nt}\)は時間\(t\)に依存する実数である。 これもまた無限次元ユークリッド空間\(\mathbb {R}^{\infty }\)の単位球面\(S^\infty \)上の点として表すことができる。
\begin{align} \v {x}_t = (a_{1t}, b_{1t}, a_{2t}, b_{2t}, \cdots ) \in S^\infty \subset \mathbb {R}^{\infty } \end{align}
改めて時間に依存する波動関数の時間微分を考えると、シュレディンガー方程式より
\begin{align} \diff {\varphi _t}{t} &= -iH\varphi _t \nonumber \\ &= \sum _n \left (-iE_n C_n e^{-iE_nt}\varphi _n\right ) \nonumber \\ &= \sum _n \left (u_{nt} + i v_{nt}\right )\varphi _n \end{align}
のようになる。ここで新たに\(u_{nt}\)と\(v_{nt}\)が現れたが、これらは \(a_n, b_n\)と同様に実部と虚部をそれぞれ\(u_{nt}\)と\(v_{nt}\)とした。 これらは\(a_{nt}\)と\(b_{nt}\)の時間微分である。 \(C_n=a_n + i b_n\)なので
\begin{align} \diffop {t} \left (\begin {matrix} a_{nt} \\ b_{nt} \end {matrix}\right ) = \left (\begin {matrix} 0 & E_n \\ -E_n & 0 \end {matrix}\right ) \left (\begin {matrix} a_{nt} \\ b_{nt} \end {matrix}\right ) \end{align}
なる関係がある。 これらの波動関数の時間微分の係数もまた無限次元ユークリッド空間の 単位球面上の点として表すことができる。
\begin{align} \diff {\v {x}_t}{t} &= \v {v}_t \nonumber \\ &= (u_{1t}, v_{1t}, u_{2t}, v_{2t}, \cdots ) \in T_{\v {x}}S^\infty \subset \mathbb {R}^{\infty } \end{align}
である。
さて、ここで波動関数は無限次元ユークリッド空間の単位球面上の点として表すことができるので 波動関数の時間発展は単位球面上の点の運動として表すことができる。 もしエネルギーのカットオフを入れて第\(N\)項までで打ち切っておいたときは \(2N\)次元ユークリッド空間の単位球面上の点の運動となる。 波動関数の表す状態に近い状態というのは単位球面上の点の近傍の点として言い表すことができる。 また状態を表す点\(\v {x}\)は時間発展とともに移動するが、常に単位球の表面上にあるため 速度ベクトルは常に単位球に接している。 従って単位球外への出入りがないために流れは常に単位球表面上に閉じている。 一方、速度ベクトルの発散を計算すると
\begin{align} \divergent \v {v}_t &= \tr \sum _n \left (\begin {matrix} 0 & E_n \\ -E_n & 0 \end {matrix}\right ) \nonumber \\ &= 0 \end{align}
となり、\(0\)である。即ち状態空間の中の体積は時間発展に伴って不変である。 単位球表面からの出入りがないので、即ち単位球面上の状態近傍の面積は 時間発展により不変である。 これは解析力学のリュービルの定理の量子力学でのアナロジーである。 従って解析力学におけるポアンカレの回帰定理と同様の議論を行うことができるのだが、 実際にどれくらいの時間くらいで初期状態の近傍に戻るのかの概算を行ってみる。 状態空間上での速度の大きさは波動関数の時間微分のノルムに等しい。即ち
\begin{align} \left \|\diff {\varphi _t}{t}\right \|^2 &= |\v {v}_t|^2 \nonumber \\ &= \sum _n (u_{nt}^2 + v_{nt}^2) \nonumber \\ &= \sum _n E_n^2 |C_n|^2 \nonumber \\ &=: v^2 \end{align}
さて、状態の近傍を単位球面上の半径\(\Delta \)の領域だと考えると、 単位球面上の領域全体を半径\(\Delta \)の領域で"ほとんど"重ならないように覆いつくす のにどれくらいの数の領域に区分けできるかということを考えてみる。 状態が現在の領域を出て、隣の領域へ移動したとすればその移動時間\(\Delta t\) は
\begin{align} \Delta &= v \Delta t \nonumber \\ \end{align}
のような関係が見出される。単位球 \(S^{D-1}\ (D=2N)\)の表面積は
\begin{align} |S^{D-1}| = \frac {2\pi ^{\frac {D}{2}}}{\Gamma (\frac {D}{2})} \end{align}
であり、 \(S^{D-1}\)上の点\(p\)の半径\(\Delta \)の領域内の表面積\(V\)は
\begin{align} V = \frac {2\pi ^{\frac {D-1}{2}}}{(D-1)\Gamma (\frac {D-1}{2})}\Delta ^{D-1} \end{align}
であるので、単位球の表面は
\begin{align} N &= \frac {|S^{D-1}|}{V} \nonumber \\ &= \frac {2\pi ^{\frac {D}{2}}}{\Gamma (\frac {D}{2})} \cdot \frac {(D-1)\Gamma (\frac {D-1}{2})}{2\pi ^{\frac {D-1}{2}}} \cdot \frac {1}{\Delta ^{D-1}} \nonumber \\ &= \frac {(D-1)\sqrt {\pi }\Gamma (\frac {D-1}{2})}{\Gamma (\frac {D}{2})} \cdot \frac {1}{\Delta ^{D-1}} \label {ref:N-eq} \end{align}
だけの領域で区分けされることになる。 そうすると初期状態の近傍の領域は少なくとも\(N\Delta t\)秒で 単位球面上のすべての領域をくまなく一度は通過するか、もしくはすでに通過した 領域を再度通過している。従って再度通過した領域を最初に通過したときの時間\(T\) だけ時間を引き戻せば、初期状態の近傍の領域は\(T\)秒後にはまた初期状態の近傍に 戻ってきていることになる。
ここで、状態が最初の領域を出て"ほとんどまっすぐに"となりの領域へ移動する とすることができるのは、領域の半径が 状態の移動がほとんど直線的であるとみなせる程度の大きさである必要がある。 それは\(\Delta = v \Delta t\)から\(\Delta t\)が "ほとんどまっすぐ"移動すると言える程度の 時間間隔と言い換えることができる。 位置の時間\(t\)による初期状態まわりのテイラー展開より
\begin{align} \v {x}_{t+\Delta t} &= \v {x}_t + \v {v}_t \Delta t + \frac {1}{2}\diff {\v {v}_t}{t} (\Delta t)^2 + \cdots \end{align}
なので、その時間間隔が小さいのであれば1次と2次との大きさを比べて 2次の項の大きさが十分小さいとみなせるときが"ほとんどまっすぐ"移動している と言える。即ち
\begin{align} \frac {|\diff {\v {v}_t}{t}|}{|\v {v}_t|}\Delta t \ll 1 \end{align}
である。 具体的に計算すると
\begin{align} \Delta t \ll \frac {\sqrt {\sum _n E_n^2 |C_n|^2}}{\sqrt {\sum _n E_n^4 |C_n|^2}} \end{align}
である。右辺の係数にくる\(2\)はオーダーの問題なので落としている。 領域の半径\(\Delta \)の評価としては
\begin{align} v\Delta t = \Delta &\ll \frac {\sum _n E_n^2 |C_n|^2}{\sqrt {\sum _n E_n^4 |C_n|^2}} \nonumber \\ &< 1 \end{align}
である。最後の不等式はコーシー・シュバルツの不等式からである。 1
(16)式とこの\(\Delta t\)の不等式から
\begin{align} N \Delta t &= N \frac {\Delta }{v} \nonumber \\ &= \frac {(D-1)\pi ^{\frac {1}{2}}\Gamma (\frac {D-1}{2})}{\sqrt {\sum _n E_n^2 |C_n|^2}\Gamma (\frac {D}{2})} \frac {1}{\Delta ^{D-2}} \nonumber \\ &\sim \frac {(2N-1)}{\sqrt {\sum _n E_n^2 |C_n|^2}} \frac {1}{\Delta ^{2N-2}} \label {ref:NDeltat} \end{align}
が初期状態に近い状態に戻るまでの時間の概算になる。
ここで簡単にここまでの結果を評価したいと思う。 \(N\)というのはカットオフのオーダーであるが、\(N\)を大きくとることは厳密な波動関数を 近似する精度に関係している。 一方、\(N\)を大きくとっていくと状態の近傍の領域の面積\(V\)は小さくなり、 \(N\rightarrow \infty \)で\(\rightarrow 0\)である。 同じことは単位球の表面積\(|S^{2N-1}|\)にもいえて、その比\(N\)は \(\rightarrow \infty \)である。 初期状態が再度近い状態に戻るまでの時間\(N\Delta t\)も(22) の最初のfactorの分母が\(|\braket {\varphi |H^2|\varphi }|^{1/2}\)で上から抑えられるので 有限の範囲で収まるので全体としては\(N\Delta t\rightarrow \infty \)となる。 \(N\)を大きくとることは、波動関数を正確は波動関数に近い形にすることに対応するが、 近さの精度を上げるともとの状態の近い状態に戻る時間間隔が長くなるのは 単純に今回のここでの"近さ"の評価による要因が大きいように思う。 すべての次元の座標を同じ評価で行っているが、実際には高次の項に対応する座標は ほとんど\(0\)の近傍にいるのでそこまで含めて評価するともっと時間を絞れるかもしれない。 簡易的な評価としては波動関数の近似が十分に良いところを見極めて\(N\)を決めて固定してしまい、 そののちに\(N\Delta t\)を評価するのが良いかもしれない。 今回はここまでの考察にしておく。